【急増する高経年マンションの抱える問題】
マンションの建て替えに関するルールが変わりそうです。
現在、マンションの建て替えに必要な決議の要件が全体の5分の4(80%)から、4分の3(75%)や3分の2(67%)と緩和される見込みです。
現在、マンションの建て替えに必要な決議の要件が全体の5分の4(80%)から、4分の3(75%)や3分の2(67%)と緩和される見込みです。
これによって老朽化した建て替え、再開発が進むのではないかと見られています。
現在検討されている改正案と、そもそも区分所有について、その具体的な内容や、気をつけるべき点などについて、まとめてみました。
建て替えに必要な決議が5分の4から4分の3または3分の2に緩和へ
マンションの建て替えに必要な決議などを定めているのは「建物の区分所有等に関する法律」(区分所有法)という法律です。
この法律は分譲マンションや商業ビルに適用されます。
現在、改正に向けて法制審議会の区分所有法制部会で現在議論が行われており、2023年6月8日には中間試案が示されました。
パブリックコメントを経て、2024年の通常国会に改正法が提出される予定です。
建て替え決議については、現在の5分の4から、客観的事由(耐震性の不足や防火、腐食、バリアフリーなどの基準適合、建築完了時のからの経過年数)によって、4分の3または3分の2に緩和されることが検討されています。
また、被災建物など至急対応をすべき必要があるものについては客観的事由によらず3分の2に緩和されます。
さらに、一棟リノベーションはこれまで全員の同意が必要でしたが、多数決を導入することが検討されている他、
連絡がつかなくなった区分所有者の議決権を除外できたり、その専有部分を管理する仕組みなどが検討されています。
そもそも区分所有とは?
そもそも区分所有とは一体何でしょうか?
「区分所有」とは、一つの建物内の各部屋やフロアを異なる所有者が持つ制度のことを指します。
具体的には、一つのマンションやビル内の個別の部屋やフロアが、それぞれ異なる人や団体に所有される構造を指します。
たとえば、マンションの場合、各部屋は、それぞれ異なる個人や家族が所有している場合が多いです。
これに対して、建物全体や敷地、共用部分(例:ロビーや廊下、エレベーター、駐車場など)は、そのマンションの区分所有者全員が共同で所有する形となります。
バルコニーなども共用部に当たります。
これまでは土地と建物については、複数人が所有する場合、分筆や共有などの方法でしか所有権を持つことができませんでした。
その場合、個別の部屋ごとに相続や売買するのが大変だったのですが、区分所有ができることによって、一つの区分(部屋)を独立した不動産として取引できるようになったのです。
区分所有の物件の場合、建物の登記簿の表示部分に「一棟の建物の表示」と「敷地権の目的となる土地の表示」「専有部分の建物の表示」とそれに対応する「敷地権の表示」が記載されます。
これによって、他の物件とは独立して売買したり、土地に抵当権をつけたりすることができます。
一方で、土地と建物を別々に取引することはできなくなります。
区分所有の議決権ってどうやって決まるの?
区分所有の一つ一つを独立して売買できるとはいえ、全体としては一つの建物であり、廊下やエレベーターなどの共用部分も存在します。
建物全体を建て替えたり、大規模修繕をするときに全員の意見が一致するとは限りません。そのため、区分所有者それぞれが議決権を持ち、その議決権の割合によって、多数決をすることになります。
多数決ですが、通常の決議(普通決議)の場合、「区分所有者の過半数」かつ「議決権の過半数」の賛成で可決されます。
議決権とは、通常、専有面積の割合で決められます。
例えば、専有部分の合計が1,000平方メートルのマンションがあったとして、そのうち65平方メートルの専有部分を所有する人は、議決権も1,000分の65を持つことになります。
自分がどのぐらいの議決権をもっているかは、登記簿で確認することができます。
マンションに関わる意思決定をする場合、どの議案をどの議決権の割合で可決するかは管理規約の定めによって決めることができるのですが、重要な項目については法律で定められた割合があります。
今回の改正案は、そのうちの建て替えや変更など重要な部分の議決に必要な議決権割合を変更するものです。
建て替えが必要なマンションが急増!
現在のマンション総数は約685.9万戸(2021年末時点)あり、そのうち、建て替えを検討する必要がある築40年以上のマンション(高経年マンション)は115.6万戸(約17%)あります。これが、2026年末には169.7万戸に、約20年後の2041年には425.4万戸にも登ると想定されています。
一方で、建て替えは全く進んでおらず、これまでに行われた建て替えの実績は累計で270件、約22,200戸(2022年4月)に過ぎません。
今回、法律改正の議論が行われることになった背景としては、建て替えが進まない現状を踏まえて、少しでも建て替えが進むようにとの思惑があります。
建て替えるとなると1戸あたり「2000万円」が必要になることも
しかし、議決権を変更しただけで建て替えがスムーズに進行するわけではありません。
実際の現場では、大多数が賛成するか、あるいは賛成が半分程度しか得られないケースが多く、議決権の80%のボーダーが67%に変わるだけで大きな変化は期待できないという見方も存在します。
またこの議決権割合の問題以上に、連絡が取れなくなった区分所有者や、集会に出席しない区分所有者は事実上「反対」として取り扱わざるを得ず、議決に向けての障害になることもあります。
また、自分の部屋を賃貸に出している区分所有者が多い中、建て替え決議をしても賃貸契約が自動的に終了するわけではないため、どのように立ち退きを促進するかという問題も考慮する必要があります。
これらの複雑な問題を総合的に検討することが必要となってきます。
さらに、事業費の負担という問題もあります。
これまでは、容積率が余っている建物を建て替えることで新しい面積を生み出し、それによって事業費を補うということが行われてきました。
しかし、近年建てられているマンションはあまり容積に余裕がない状態で(容積率いっぱいで)建てられており、建て替えても新たに売り出せる面積が生み出せないというケースがあります。
そういった場合、必要な事業費を自分たちで捻出する必要があり、区分所有者あたり2,000万円程度の負担になるという試算もあります。
修繕積立金の積立不足も問題に
また、マンションは大規模修繕することが義務になっており、そのための積立を行っています。しかし、資材費や人件費の高騰などから修繕費用は値上がりしており、過去に建てた修繕計画から乖離が生じています。
国土交通省の調査によれば、計画期間25年以上の長期修繕計画に基づく修繕積立金の額を設定しているのは全体の約54%であり、積立額が計画に比べて不足しているマンションは全体の約35%にものぼります。
築40年以上の高経年マンションでは、共有部分である外壁の剥落、鉄筋の露出・腐食、旧配管の老朽化といった、生命・身体や財産・資産価値に影響を抱える物件も多く存在します。
住み替えるならマンション?戸建て?
このようにマンションには戸建てとは異なる法律や管理ルールがあります。
もちろん、マンションにはマンションの利点があります。
まず、多くの場合、駅から近いなどの利便性が高いことが挙げられます。
他にも、気密性が高いこと。フラットな間取りが多く、子育て世代や高齢世代にも住みやすいことなどがマンションの利点です。
一方で、マンションには、特有の管理組合の決議や修繕といったルールがあります。
高経年マンションが増えるにつれ、法律やルールもそれに応じて変わってきていますが、マンションを選ぶ際には、物件そのものではなく、管理状況や管理組合の運営状況などもしっかりと調べた上で検討する必要もあります。
これらは法律に規定されている他、管理組合の運営実態など購入前にはなかなか分からない事も多くあります。
これらのデメリットは自分ひとりの努力でどうにか改善できるタイプのものでもありません。
「住んでしまえば、なんとかなるだろう」と先送りできない問題であり、これらをしっかり考えた上で家探しをする必要があります。
いまマンションにお住まいの方にとっても、マンションの老朽化は避けて通れない問題です。
今のマンションの運営状態が将来どうなるのか、建て替えなどになった場合にどのぐらいの時間と費用がかかるのか、など、事前にしっかりと調べ、対策を考えておくべきです。
先行き不透明なことが続く世の中。将来の不安な要素があるマンションに住み続けるより、思い切って一戸建てに住み替えをするのも、一つの方法かもしれません。